本研究は、民法上の各種の表見責任法理において当事者の責任根拠とされている「帰責性」概念について、その構造、および法律行為論ないし意思表示論における位置づけを理論的に明らかにすることを目的としている。本年度は、研究の第一段階として、民法上の各表見法理における規定の沿革・現在の理論状況・判例による運用状況の客観的な分析を行うとともに、比較法的考察を行うための文献収集および情報収集を行った。 各表見法理における規定の沿革・現在の理論状況・判例による運用状況については、民法94条2項、民法478条、表見代理(民109条、110条、112条)について検討し、現在の理論状況及び判例による運用状況は、本人の意思的関与の観点からかなり問題があることが判明したので、そのような結果をふまえて、表見法理の類推適用を抑制すべきとの観点からの判例研究を公表し、立法的提言を行った。また、民法総則の法律行為および意思表示に関する解説(法学セミナー連載)において、各表見法理の解釈に反映させた。 比較法的考察を行うための文献収集および情報収集については、帰責性というわが国独自の概念に由来する文献・情報の収集の困難性から、実質的に類似する理論ないし概念を探索し比較検討する必要性があるため、ドイツで短期間の資料収集調査を行った。これにより、資料収集については十分とはいえないが、検討すべき問題領域等の探求に関しては重要な示唆をいくつか得ることができたので、次年度はドイツ法との比較から帰責性概念の理論的解明に研究を進めて行きたい。
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