本研究は、民法上の各種の表見責任法理において当事者の責任根拠とされている「帰責性」概念について、その構造、および法律行為論ないし意思表示論における位置づけを理論的に明らかにすることを目的としている。本年度は、前年度の研究において十分でなかった点を補充するとともに、研究の第二段階として、各表見法理に共通する帰責性の要素を分析するとともに、わが国およびドイツの法律行為論、フランスや英米法の契約論と帰責性概念との関係を理論的に検討することを試みた。 各表見法理における帰責性の分析については、民法94条2項、民法478条及び表見代理規定を中心に帰責性の内容を整理し、帰責性とよばれるものの中には、なされた行為を是認する別の合意が当事者間に存在する場合、当該行為を含む行為がなされることについての包括的な権限授与があったといえる場合、権限授与がないまま行為がなされることを利用する意図があった場合、これらの意思的な要素がないが注意義務違反を問われる場合など、いくつかの段階があり、これらを理論的に分析するためには、表見代理において従来展開されてきた議論が一般的に参考になるのではないかとの見通しを持つに至った。次年度は、各表見法理における帰責性の類型化を行い、これと表見代理理論との突合せを行いたい。 帰責性と法律行為論ないし意思表示論との関係については、帰責性概念は、意思的な要素を含む概念であるにもかかわらず、従来の法律行為論・意思表示論における効果意思、表示意思、動機といった概念で説明できる場合と、それらでは十分に説明できない場合とがあることが明らかとなった。後者の場合を意思理論のもとで説明するためには、何らかの新しい概念の設定ないし意思表示論の枠組みの修正・変更が必要になる可能性がある。次年度は、この点について理論的な検討を行い、各論的な検討と合わせて、最終的な結論を得たい。
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