本研究は、民法上の各種の表見責任法理において真の権利者の責任根拠とされている帰責性概念について、その構造および法律行為論・意思表示論との関係を理論的に明らかにすることを目的としている。本年度は3年間にわたる研究の最終年度にあたるので、これまでの研究をまとめて一定の結論を出すことをめざした。そのため、(1)まず判例の展開が著しい表見法理である民法94条2項類推適用、民法478条の適用・類推適用、表見代理規定の適用・類推適用を検討の対象とし、(2)それぞれ判例の展開の基礎となった規定の趣旨および真の権利者の帰責の構造を法律行為論・意思表示論との関係で明らかにするとともに、(3)判例の展開過程が真の権利者の帰責根拠という視点からどのように評価できるかを検討し、(4)最後にこの両者の検討のつき合わせを行った。 その結果、以下の点が明らかとなった。現在、研究成果報告書としてまとめており、期限までに提出予定である。(1)表見法理における真の権利者の帰責根拠は、(a)権利外観に対する真の権利者の認識・認容と、(b)真の権利者の認職・認容の有無にかかわらない取引形態または取引対象の特殊性に基づく第三者保護とに大別できる。(2)これらを統一的に理解するためには、表見法理は、他人による行為現象において本人が他人に権限を付与していない場合を対象とするものであると位置づけ、他人による行為の全体像を明らかにする必要がある。(3)他人による行為は、(a)行為者名義での行為、(b)代理人名義ないし本人名義での行為、(c)名義に関心なく行われる行為に分かれ、それが無権限で行われる場面で、それぞれ民法94条2項類推適用、表見代理規定の拡大適用・類推適用、民法478条の拡大適用・類推適用が利用されている。(4)各規定の適用領域の拡大・類推適用は、このような帰責の構造全体から妥当性を判断し、限界づけられなければならない。
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