平成20年度は、研究課題に関するイギリスの判例と学説を整理し、検討を行った。第三者が受託者の信認義務違反に関与する形態としては、第三者が信託財産を受領せず単に信認義務違反行為を幇助する場合と、第三者が信託財産を受領する場合がある。前者について、イギリス法は、受託者の行為が信認義務違反行為であることを知ってこれを幇助した第三者には、受託者と同様、損失てん補責任または利得返還責任を課している。 後者、すなわち受託者が信認義務に違反して処分した信託財産を第三者が受領したとき、信託財産そのものまたはその価値変形物が第三者の手元に現存している場合には、受益者は追求権などを行使して、その物の返還を請求できる。では、価値変形物が第三者の手元にないとき、そしてその第三者に受領に関して過失がないとき、第三者は責任を問われるのであろうか。近年不当利得法にもとづいて、第三者に過失がなくても信託財産に対して責任を負うことを肯定する判例、学説が現れており、注目される。エクイティ上の権利とコモン・ロー上の所有権の性質の違いに着目して、これを批判する見解もあるが、研究課題に関するイギリスの判例学説の近時の動向は、受益者の利益保護と第三者の取引の安全をいかに図るかという側面だけでなく、不当利得法の適用範囲をいかに考えるかという点においても大変興味深く、今後その理論的正当性をさらに検討していきたいと考えている。
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