平成21年度は、主として研究課題に関するアメリカ法の歴史的展開をたどり、第三者が信託違反に関与したことの責任を負うための要件について分析、検討を行った。 コモン・ローにおいては、信託違反に関与した第三者は原則として厳格責任を負うとされていた。すなわち、受託者が信託のために行う取引が、受託者の権限内であるかどうかにつき、第三者は調査する義務を負うとされていた。 しかし、信託の主たる役割が、単なる財産管理からその運用に移行するにつれ、受託者と取引を行う第三者の取引の安全が要請されるに至り、1964年の統一受託者権限法典(Uniform Trustees' Powers Act)では、第三者の調査義務を否定し、受託者の行為が権限外であることにつき、現実の認識を有していた場合にのみ、第三者は信託違反の責任を負うとされた。これに対して2000年の統一信託法典(Uniform Trust Code)では、受託者と取引を行った第三者が保護されるのは、当該取引を誠実に行った場合に限定されることとなり、コモン・ローと統一受託者権限法典のアプローチの折衷的解決が図られている。 法と経済学の立場から、統一信託法典の基準を批判し、第三者が現実の認識があった場合にのみ責任を負うことが効率的であると主張する論者もいるが、統一信託法典が採用する「誠実さ」の基準は、基本的には、信託財産と取引を行う第三者の利益と受益者の利益をバランスよく保護する妥当な指標と考える。ただし、第三者に求められる調査義務の内容を精査する必要があり、今後の課題としたい。 また、アメリカ信託法の近年の注目すべき動向として、信託の有効期間を制限する法、信託の収益を蓄積させる期間を制限する法を廃止または緩和する州が増加している点が挙げられる。この点についても若干の考察を行い、雑誌論文として発表した。
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