本年度は、持続可能な発展概念と密接に関連する多数国間環境協定の立法プロセスを検討するとともに、3か年の最後の研究年度として、過去2年間の総括を行った。 名古屋議定書については、昨年度検討したボン・ガイドラインおよび国際レジームの要請に引き続き、2009年以降の議定書起草プロセスについて、一次資料を用いて分析した。また名古屋で開催された第10回締約国会議(COP10)に出席し、実務担当者や環境NGOから貴重な情報を収集した。その結果、同議定書採択後も、国際貿易レジームであるWTO、特にTRIPs協定との抵触の問題が生じうることを指摘した(論文「遺伝資源へのアクセスおよび利益配分に関する名古屋議定書-その内容と課題-」)。また、気候変動枠組条約を素材として、多数国間環境協定の締約国会議の活動について、国連学会の研究大会で報告をおこなった(「国連のイニシアティブ-気候変動条約制度における国連の役割-」)。そこでは、締約国会議が非国家アクターとしての企業と連携し、市場原理を積極的に活用しようとしている現実を指摘すると共に、そこに存在する課題を指摘した。 上記の研究にこれまでの成果を踏まえた本科研全体の総括として、国際法学の立場から見た持続可能な発展概念の展開について、条約の立法と国際判例の分野から検討し、同概念の規範的意義について分析をおこない、「持続可能な発展法」の意義と課題について論説にまとめた(「持続可能な発展と現代国際法」)。 2012年に開催されるRio+20を踏まえて、持続可能な発展概念の重要性は今後もなお強調される傾向にあるが、概念の曖昧性に加えて、それぞれの条約における実施体制や国際機関相互の調整、市場メカニズムの活用の評価など、懸案事項も残されている。これらの課題についてさらに研究を継続させていく必要性を認識した。
|