マイノリティ女性を対象とする政策を策定・実施してきた調査対象国5カ国のうち、当該年度にはオーストラリアとニュージーランドについて文献・資料およびインターネットによる情報収集と現地調査を実施した。先住民族女性と移住労働女性・移民女性を中心に両国のマイノリティ女性の社会的・経済的状況と直面する問題、法制度や行政サービス等について、関連する政府機関、NGO、研究者に聞き取り調査をおこなった。両国とも、先住民族女性と移住労働女性・移民女性に対しては、多くの国との比較において極めて先進的な政策を採用し、行政機構も整備し、重層的にかなり手厚い保護を行ってきた。その結果、教育や社会進出などにおいて大きな改善が見られる。ただ、多少の違いはあるとは言え、それらのマイノリティ女性の多くは現在も経済的に両国社会の最下層を形成しており、健康問題、受刑者に占める率の高さ、若者の自殺など、かなり深刻な問題が解決困難な形で蔓延している。両国とも政権交代に伴って基本政策が変化を繰り返したことも大きな問題であるが、複合差別の視点が基盤として貫かれてきたとは言い難く、基本的には縦割り行政の中において重なる部分として、マイノリティ女性が受益者となってきた。マイノリティ女性の地位向上などに取組むNGOや関連分野の研究者の意識にも「複合差別」の概念は、まだ十分理解されていない。これらの事柄は、文献等によるリサーチのみでは分りにくいことであり、現地調査によって初めて明らかになったことであり、研究成果には期待が寄せられている。
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