本研究は、(1)ヨーロッパ諸国や日本と、日本を除くアジア諸国との間に、政党制と政治的イデオロギーの関係に大きな違いがあるのか、また(2)社会的亀裂の「凍結」の有無の違いによって、政治的イデオロギーの政治意識や政治行動に対する影響に違いがあるのかについて、政治構造や政治文化、政治意識、政治行動に注意を払いながら、政党政治と政治的イデオロギーとの関係を明らかにすることを目的とする。 本年度は、アジア9ヵ国、ヨーロッパ9ヵ国の市民に対して2000年の秋に実施されたASES調査を用い、(1)有権者のイデオロギー尺度への自己位置づけは、ヨーロッパの方が、アジアよりも左寄りであること、(2)ヨーロッパでも、有権者のイデオロギーが中道化していること、(3)ヨーロッパは、最右翼と最左翼の政党のイデオロギー距離が大きく、政党の凝集性も高いのに対して、アジア諸国では、日本を除き、イデオロギーが政党の関係を規定する要因ではないことなどを明らかにした。これまでイデオロギーの国際比較を体系的に分析した例はなく、学術的に大きな意義を有する研究と考える。分析結果は、平成22年度刊行予定の図書に収録する。 また日本の国会議員について、(1)2003年から05年にかけて保守化や脱保守化という傾向は見られないこと、(2)自民党代議士が中道化しており、自民党と民主党のイデオロギー対立が縮まってきていること、(3)国会議員の信念体系も、有権者のそれも、2007年になっても大きな変化を見せておらず、イデオロギーを中核とする態度構造が残存していることなどを指摘した。さらに社会団体リーダーが、社会の利益をどのように組織化しているかをイデオロギーによって分析した。前者は、2000年代の国会議員と有権者の態度を時系列的に明らかにした点で、後者は、利益表出や利益集約という、重要ながらあまり試みられなかった政治過程の一端を明らかにした点で類例のない研究である。
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