本研究は日本が他の先進国と比較した場合、際立って多額の財政赤字を蓄積している要因の一つとして、政府が増税に積極的ではなかったという認識に立ち、政治学の先行研究において予算の分配ほどには注目されることのなかった負担の分配-税制政策の決定過程を調査することを目的としている。具体的には、これまで自民党税制調査会に独占されてきたとされる税制政策過程において、公的には税制政策の大枠を決定してきた政府税制調査会の果たした役割の解明を目指した。平成20年度は政府税制調査会についての基本的理解に努めた。しかし、同年度には十分な情報が収集できなかったため平成21年度は継続して情報の収集を行い、専門家の集団として税制の改革に取り組んだ政府税制調査会と、そのような特殊技能を持つ調査会から出されるアイディアや知識を利用しつつ、税制政策を支配しようとした党税調と大蔵省の複雑な関係が明らかになった。また、党税調と大蔵省という有力アクターに加えて、80年代前半に始まった行政改革や米レーガン政権による税制改革も、中曽根政権を通じて税制改革の方向性に強い影響を与えた要素として理解された。平成22年度は最終年度としてこれまでに集めた情報の分析を行い、(1)政府税制調査会は時勢に応じて求められた税制に関わる問題に対して、専門家としての比較的中立な立場から解決にあたろうとしたこと、(2)税制改正大綱を通じて、政府税制調査会は税制の大枠を形作ったものの、細部については自民党税調の決定に譲ったこと、(3)政府税制調査会と大蔵省は税制について基本的には同調するが、大蔵省の内部において常に税制について意見がまとまっているわけではないことなどが理解された。また、ここから出てきた興味深い課題としては、日本の政治アクターの中でも特に有力と考えられていた大蔵省が、必ずしも財政均衡(のための増税)については支配的であったとは言えず、それはどのような要素に起因するかについては今後も調査を続けて行きたいと考えている。
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