研究期間最終年度である平成22年は、前年度までの哲学的、理論的研究の成果-すなわち、貧困と構造的暴力を放置したままの所有構造は正義に反すること、貧困と構造的暴力が除去される地点まで国境を越える財移転が求められること-を、具体的な政策に適応する研究を進めた。その結果、上記の哲学的、理論的要請は、第一に既存のODA政策の改革でかなりの程度実現できること、第二にODA政策の遅れや不足を補う、航空券税や通貨取引税などの国際課税(グローバル・タックス)も倫理的に正当であり、かつ有効であることを明らかにした。以上の成果は、わが国の国際協力政策・援助政策を再考する上で重要な視点を提供すると考えられる。 最終年度であるため、3年間の研究の総括をし、研究成果を2冊の著作として刊行し、社会への還元を試みた。そのうち『貧困の放置は罪なのか』は本研究課題の直接の成果であり、国境を越える財移転の倫理的正当性についての理論的解明、財移転を実現するための政策改革の解明、財移転を構想するための地球市民の倫理についての哲学的解明を行った。もう1冊は『食の人権』であり、こちらは食料という特殊な財の売買や移転に関して、本研究成果を応用したものである。食料問題については、本研究では主題的に研究してこなかったが、引き続き研究を進める課題として設定する意義を確認できた。
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