研究概要 |
マオイスト国家論の中心原理の一つである連邦制について分析した。ネパールでは,2008年5月,制憲議会において「世俗の連邦民主共和国」が宣言されたが,これはまだ暫定的な決定であり,正式には制憲議会による正式憲法の制定をまたねばならない。この国家再構築の過程において,世俗制と共和制へは王政を打倒した2006年革命の成果の確認であり比較的問題なく移行できたが,連邦制については支邦区分や権限分割など利害が複雑に絡むため議論が紛糾し,収拾がつかない状況にある。 そこで,本年度は連邦制を中心に資料を収集し,分析した。まず連邦制の歴史と理論を概観し,単一制国家の地方自治との比較,多民族国家における妥当性などについて考察した。そして,この基礎的考察をもとに,ネパールでこれまでに提出された様々な連邦制案の中から代表的なものを選び,比較検討した。マオイストの9州案と13州案,統一共産党の15州案,コングレス党の16州案,P・シャルマの19州案,H・グルンの25州案,SK・ヤダブの7州案など。 分析の結果,多民族国家ネパールには一般論としては連邦制が適しているかもしれないが,具体的な支邦区分や権限分割になると,どの案をとっても無理が生じ,むしろアイデンティティ政治に陥る危険性が大であることが判明した。ネパールの現状を考えると,連邦制よりも,単一制を維持しつつ地方自治を拡充していく方が,より安全であり現実的である。 この研究については,実地調査の際,ネパールの政治家や研究者に概要を紹介し,連邦制導入の是非に関する議論を深めることが出来た。
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