調査の3年目にあたる2010年度は、前年度から継続し、東カリマンタン州東クタイ県ブサン郡におけるインタビューと参与観察を8月と2-3月にかけて2回行った。ほかの期間はフィールドで取得したデータや文献資料の分析を行った。現地調査では以下の点を明らかにした。(1)現地で操業を行っている油ヤシ企業の現地の社会経済への影響と、地域住民の油ヤシ企業受け入れの状況。(2)油ヤシ企業は地域に現地住民の土地利用の侵害等の問題を引き起こし、現地に生み出す雇用も少なく、約束している農園地の分割によって現地に生じる経済的利益も確かではない。しかし現地では隣接する油ヤシ農園に対する態度が村落によって異なっていた。調査を行った3つの村落(A村、D村、F村)で、A村は受け入れ拒否、D村は賛成と反対が混在、F村は、リーダーが住民の合意を得ずに勝手に油ヤシ農園受け入れに合意していた。(3)この3つの村の態度の違いをもたらしているのは、村のリーダーシップの差であった。インドネシアの民主化過程で事業主に住民からの合意を得ることが義務付けられているが、事業主は地域有力者との合意だけで安易にすませようとし、リーダーシップの違いによっては住民は大きな損失を被ってしまう。(4)また、F村では住民の換金作物の植え付け面積に関する戸別調査を行い、ココアやゴムなど換金作物栽培が従来の米作に代替する形で過去10年にわたって増加してきていることを明らかにした。換金作物栽培は土地の長期間の占有を伴い、住民の土地に対する権利意識強化をもたらしている。2010年12月に東南アジア学会で発表を行い、インドネシアの油ヤシ農園の拡大を事例とし、住民の慣習的な土地利用を国家が保護していくうえでの課題について、インドネシアと同様の問題を抱える他の発展途上国を比較して検討を行った。
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