この研究は、インドネシア東カリマンタン州東クタイ県における油ヤシ農園の進出を背景に、現地のダヤク農民との間で生じている土地問題の要因を以下のように分析した。(1)ダヤク農民たちは長期にわたって従来の焼畑による自給自足的米作から換金作物栽培に地域の農作を転換しており、それに伴って土地に対する個人の所有意識が強まっている。(2)東クタイ県の例において、油ヤシ農園栽培は住民の生活向上に貢献せず、現地の住民の慣習的土地利用を一方的に侵害している。民主化以降、住民の慣習的土地権を強化するために進出企業に住民からの合意を得ることを義務づける政策が取られている。しかし、東クタイ県の例にもみられるように、開発企業が地域全体の合意を得ずに、一部の有力者に金を与えたうえで合意を取り付けてしまう事例が多発している。開発企業の進出にあたっては、公平な第三者の監視のもと、進出企業と住民全員との間で土地利用に関する適切な合意形成を行う制度づくりが重要となる。
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