研究代表者は、8月から10月にかけて、フィンランドにおいて最終調査を行った。主に国会図書館にて内閣法案提案理由書、社会保健省作業部会報告書などの公文書から、保健制度改革の過程を研究し、自治体協会、医療関係者からも聞き取り調査を行った。その結果、以下のことが明らかになった。 フィンランドの自治体とサービスの構造改革については、自治体合併が進行しつつあり、より大きな連合自治によるサービス供給の基盤がつくられてはいるが、合併の規模に関する与野党のコンセンサスが形成されていないので、その決定は2011年5月に行われたフィンランド議会選挙後に持ち越されることになった。 保健ケアサービスの構造改革については、2010年12月30日に「保健ケア法」がフィンランド議会で制定され、2011年5月1日から施行されることになった。この結果、利用者による医療機関の選択の権利が段階的に拡大され、自治体または自治体の共同事業地域によって運営される基本保健事業(一次医療)と、自治体組合によって運営される20の専門医療組合(二次医療)の協力がより密接になる。構造改革が進行中なので、新しい保健ケア法では、一次医療と二次医療の合体化など、運用および財政制度の改革には踏み込んでいない。 フィンランドの公的医療は国民の大きな信頼を得ているが、慢性的な医師不足が特に一次医療、および小規模自治体で問題となっている。また健康の社会経済的格差も見られ、富裕層が民間医療を利用し、低所得層が公的に運営される保健センターを利用するという傾向が強まっている。しかし新しい保健ケア法によって住民が自由に医療機関を選択できるようになることは、サービスの改善と利用促進につながると期待される。
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