平成21年度は、昨年度に引き続きインドネシアと日本、そして新たにフィリピンにおける原発政策をめぐる推進派・反対派の論理と行動についての調査を実施した。 アジアは原子力発電の時代を迎えたといわれているが、原発推進政策は順調に進展するとは限らない。インドネシアとフィリピンでは、原子力政策以外の争点が政治化して政治対立が生じるだけではなく、反原発社会運動が拡大した。インドネシアでは、安全性の観点から建設予定地周辺のイスラーム指導者と科学者・法律家を主体とした地元NGOが反原発社会運動の担い手となった。フィリピンでは、政策過程の不透明性と汚職の構造化が争点化したために、安全性、環境の観点からは必ずしも意見の一致をみないNGO団体が建設予定地のカトリック教会と共闘するという運動の展開をみせた。政策不信が原子力不信を生み、この両国では原発計画は中断している。これに対して日本では、反原発運動がマス・メディアの注目を集める新鮮な論点を打ち出せずに苦慮している一方で、地球環境問題への貢献というスローガンのもと原発政策、原発ビジネスが活況を呈している。 電力供給不足の解決、原油獲得の限界、気候変動への対策として、原発ビジネスの多国籍化か原子力政策の推進要因となっている。しかし、エネルギー確保と省エネというアジアにおける共通課題は、政治・社会状況によって国ごとに異なる様相を呈している。共通課題はアジアだけではなく各国の安全保障に関わる事柄であるにもかかわらず、現実には短期的な利益あるいは政策提言に直結しない形での対立が存在する。また、政策策定過程が閉鎖的であることに市民社会は不満を抱きやすいために、原発政策をめぐる言説と運動は未来を語るというよりも、現状をめぐる後ろ向きの議論になりがちである。
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