本年度は、概ね二つの方向で研究を進めた。いずれも、歴史的な分析を踏まえながらも、現状分析に力点を置いた研究となった。 一つは、政治改革以後の日本の民主主義の変容についての分析である。これは2009年9月の政権交代を踏まえたものであるが、1960年代以来の市民政治が政治主体の個人主義化を促進し、それが新自由主義と結合し、政党デモクラシーの市場競争化が進展したという分析であり、学界その他から一定程度の反響を得ることができた。具体的な研究成果でいうと、『世界』と『現代思想』に掲載された論文である。 また、もう一つは、労働政治史を踏まえた労働組合の分析である。政治改革以後の民主主義の変容に対応して、労働組合も社会的労働運動への傾斜を深めているが、それは労働組合を個人の連帯、すなわちアソシエーションとして再生させるものであり、その意味で市民政治が労働組合を本格的に変容させつつあるというのが、結論である。この論文は、新川・篠田編『労働と福祉国家の可能性』の14-30ページに掲載された。 成果の公表には至っていないが、以上の作業と並行して、一九五五年体制以来、今日に至るまでの民主主義の変容と、そこにおける市民政治の役割を分析した本の執筆を進め、ほぼ半分まで完成した。その内容の中心を構成するのは、1960年代に登場した市民政治が政治改革以後の政党デモクラシーの市場競争化を下支えしたという上記の分析であり、できれば2010年度中に刊行にこぎつけたいと考えている。
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