本研究は、政治集会における政治家と聴衆との関係に焦点を当てている。特に、話し手(政治家)と聴衆との間にどのような相互作用が発生するか、聴衆の反応は話し手の発表の内容や方法に即座にどういった影響を与えるか、などを国際比較の観点から検証し、明確にすることを目的とした。今年度は2009年の衆院選京都府選挙区の各政治集会における演説を録画し、候補者18名のテープおこしを行った後、聴衆が話し手の言葉に対する反応を区別した上で、欧米で行われた同様の研究の基準となる修辞法の一覧表を作成した。 本研究の重要な結果は次の通りである。(1)演説者が用いた修辞法の一覧表は、(1)リスト(2)対比(3)問題提起と解決策の提示(4)見出しとオチ(5)立場の明確化(6)追求(7)組み合わせ(8)挨拶をする(9)感謝を述べる(10)同意を求める(11)冗談を言う(12)お願いをする(13)選挙活動に関すること(14)その他、である。(2)これらに対して聴衆の反応を、(1)拍手(2)笑い(3)声援(4)相槌など、に区別した。(3)反応の発生回数の組み合わせについて【冗談-笑い】が最も多く123回、反応の全体に占める割合は34.1%であった。次に【お願い-拍手】が61回で全体に占める割合は16.9%、【感謝-拍手】が36回で全体に占める割合は10%であり、上記の3つで全体の61.1%を占めている。また、他の研究と比べて日本独自の修辞法(一覧表の(18)~(16))は合計292回、全体に占める割合は81.1%になることが分かった。(4)欧米で行なわれている同様の研究と比べると、日本の話し手が用いた「明白な修辞法(一覧表の(8)~(12)、(14))」と「暗黙な修辞法((1)~(7))」に明確に区別することができる。前者の全体に占める割合は76.1%、後者は19.7%であった。(5)聴衆が話し手(候補者)の言葉に対する反応と選挙の結果(当選や落選)との間には相関関係は見当たらなかった。あくまでも有権者にとっては政治集会における候補者の話や雰囲気などは投票行動に関する1つの変数にすぎず、決定要因ではない。今後さらにこの研究を通じて日本と世界との相違点や類似点を明らかにし、各政治文化における政治集会の特徴や効果について明確にまとめようと考えている。
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