計画当初の到達目標は、安全保障研究と平和研究の研究成果を規範的政治理論に取り込むことによって3者の研究を相互参照可能なものにすると共に、3者における平和と武力の相互関係についての理解を批判的に吟味するための基礎を据えることであった。しかし、昨年度までの研究によって、安全保障研究と平和研究においては、他2分野の研究成果が現在進行形で積極的に摂取されており、この点での規範的政治理論の立ち後れが明らかになった。そこで計画に修正を加え、安全保障研究と平和研究の最新の研究成果を用いて規範的政治理論を批判的に吟味することに重心を置くこととした。その際、平和研究において近年進展のめざましい「リベラルな平和」批判を安全保障研究との近年の動向との一致点とみなすことができ、この方向性では規範的政治理論においては、J.グレイのmodus vivendi論が方向性を同じくするとの見通しも得ていた。本年度の研究は、この見通しの線に沿って改めて安全保障研究と平和研究の最新の研究成果を検討することに当てられた。またこれに加えて、規範的政治理論の最新の研究動向のフォローも行った。具体的には、これらの目的のための文献研究を進めると共に、国際学会に参加する等の機会を通して、内外の研究者にインタビューすることによって、申請者の研究見通しの妥当性についての検証を行った。研究計画に修正を加えた影響で成果公表については計画通りに進まなかった点が反省されるが、これらによって、平和と武力の関係をめぐる3研究分野の理論の現状を整理するという課題達成に必要とされる分析作業は着実に遂行できたと言え、当初計画で本申請期間を経た後の研究全体の最終目的とした、平和との関連で理解される武力の整備・運用の適切さについて、政策決定に適用可能な規範的正当化の原則を解明するという課題に取り組む基礎を得ることができた点で、意義深いものであった。
|