本研究の課題である「1970年代東アジア国際環境の変容と日本」を解明しようとするとき、印象論や評論にとどまらない実証的なアプローチで臨もうとすれば、どうしてもアメリカ、イギリス、日本など文書の解禁が進んだ国々の外交文書に依拠せざるを得ない。そこで問題になるのは、第一にアジアの側の視点や情報をいかに取り込むかという点であり、第二に政府当局者、外交官だけではない政治家、経済界などを含めた広範な当事者の観点や存在意義をどう取り入れるかという点である。 本年度は第一の問題に対応するため、シンガポールにおいて、シンガポール国立公文書館、シンガポール国立大学図書館所蔵「マラヤ・シンガポール・コレクション」の調査を行ったほか、1960年代末から1970年代にかけての東南アジア国際政治に関する文献の収集を行った。シンガポールはアジア諸国の中では比較的歴史的な政府文書が公開されている国であり、本研究に関わる資料の公開状況を調査することが目的であった。 また第二の問題への対応として、同時期の対東南アジア関係に携わった日本側関係者に対して複数回のインタビューを行った。これには外交官、政府当局者だけではなく、デヴィ・スカルノ氏(スカルノ・インドネシア大統領夫人)や商社関係者など、広範な当事者を含んでいる。そのことによって、外交文書だけではうかがい知ることのできない当時の実情を理解することが可能となった。 前年度、そして今年度の資料収集やインタビューなどによって得られた知見をもとに、現在共著の刊行計画を進めている他、2010年秋の日本政治学会で日本のアジア外交についての報告を行う予定である。
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