22年度の研究概要は以下の通りである。 前年までの本研究の主眼は、NATO、EU加盟を目指す南東欧各国家の国益と地域協力の相克、具体的には地域協力の推進と対ヨーロッパ政策における国益の追求の二律背反状況に焦点を当てた研究であった。また、その範囲内で地政学的視座を取り入れた地域協力の研究を中心にしてきた。しかし、22年度は、欧米の地域研究の動向、さらにそこにおけるボーダ(境界線)研究の視角を取り入れた研究を進めた。南東欧あるいはバルカン地域では、その地域認識、境界線認識は、地理的、政治的に明確に固定されたものではなく、多分にヨーロッパ国際政治、あるいは国際政治全般、さらにグローバル政治経済の文脈のなかで変動してきたといえる。さらに今日の南東欧協力においては、構成主義的な国際政治理論、地域政治認識が分析手法として注目を集めている。こうした状況に鑑み、22年度は、セルビアの国際政治経済研究所での報告と、これに関する論文を内外で公表した。南東欧の地域認識においては従来からの政治学、行政学、さらに政治地理学でいう「物理的」境界線から、文化的、歴史的な差異に由来し、人々のアイデンティティや地方(local)的、地域(region)的一体感にかかわる「メンタル・ボーダー」まで広く射程におさめて研究を発展させました。発表論文では、主として、旧ユーゴスラヴィア解体過程のおける新たな国境線の創出の過程における構成主義的認識の登場に注目し、南東欧におけるボーダー認識の歴史的変容のなかで政治、経済、・安全保障、文化などの領域における地域協力の実態、また、民衆の政治空間、境界線についての認識の変化などに焦点をあてた分析をおこなった。また。本研究をもとに東アジア地域協力と日本外交についての論考も公表した。
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