これまで、NATO、EU拡大に伴う、南東欧の地域協力、地域主義についての特徴と、地域協力の問題点について、地域協力の枠組みにおける国家利益の相克、NATO、EUへの加盟競争が地域協力を阻害している点を中心に研究を進めてきたが、今年度は地域協力にともなう地域境界線に対する国家や国民、住民の意識の変化や国家を超えるあるいは国家の内部のアイデンティティ意識の表出にともなう境界線意識の問題と地域協力の進展というあらたな問題領域に取り組んだ。いいかえれば、様々な境界線意識と地域協力のテンポの問題、および地域アイデンティティ形成にはたしている境界線の意味などについて研究を深めた。とりわけ、旧ユーゴスラヴィア紛争にともなって生じた、地域境界線の閉鎖的側面やユーゴスラヴィア内部における新たな境界線の現出が断絶の境界線となって地域協力を阻んできたことなどが明らかにされた。また、今年度も引き続き、研究成果をセルビアの各種研究機関で発表し、共同研究を継続し、論考を公表することができた。セルビアの国際政治経済研究所や政治学研究所での研究がそれであり、また、セルビアとハンガリーの境界線の都市スボティツア(セルビア共和国ヴォイヴォディナ自治州)では、市民の境界線意識などを伺う機会を得、社会主義時代、その後の体制転換と民主化過程における境界線の意味変容、さらに紛争にともなう境界線とアイデンティティの変容などについての調査をおこなうことができた。これに加えて、あらたな学問的地平として「境界線研究」という研究領域に踏み込むことができたことは今後の研究の継続に有用であったことも記しておきたい。
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