1970年代以降、民族自治、権力分掌といった多極共存型民主主義が紛争の予防策と考えられてきた。しかし、本研究では、ザカフカスの二つの民族の戦争を事例に取り上げ、民族自治体の存在が分離独立を促す要因であること、そして民族ネットワークの存在が民族マイノリティの紛争の支えとなることを論証した。ナゴルノカラバフのアルメニア人民族マイノリティが、自治制度のおかげで民族アイデンティティを動員することができ、また隣国のアルメニア人の民族本国、そして世界各地に散在するアルメニア人ディアスポラのエスニック・ネットワークを通した支援が分離独立戦争を可能にした。アブハジアでは、もともと同自治共和国内にあって民族マイノリティであったアブハジア人が、自治制度のおかげで権力分掌を獲得し、やがて自治制度を利用してエスニック・アイデンティティを称揚し、グルジア人を追放し、分離独立に成功することができたことを明らかにした。
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