本研究の目的は、トランスナショナルな市民社会(TCS)が金融機関の社会的責任投資(SRI)に及ぼす影響について考察し、新たな規範形成にどのような変化が生じるのかを検証することにあった。下記、平成22年度の研究実績についてまとめる。(1)欧米諸国の金融機関の実態調査:経営形態・規模が多様な欧米諸国において、金融機関は如何にその責任を全うすべく運営しているのか。特に、日本の千倍のSRI市場を有する欧州のベスト・プラクティスに注目した。国・機関によって温度差があるものの、共通しているのは「持続可能な社会の実現」であり「情報開示・説明責任を全うする」という姿勢である。多くの場合、第三者委員会を設け、透明性の確保に努めている。背景には、金融機関間の競争及び預金者の意識向上がある。(2)国内の金融機関の調査:企業の社会的責任(CSR)の意識が法令順守及び社会貢献の域を出ない日本においてSRIは浸透しているのか。若干の地方銀行や信用金庫等が環境分野においてSRIに取り組んでいるものの、全般的に国内の金融機関のSRIに取組む姿勢は鈍化したままである。ネガティブ・スクリーニング(特定の分野<eg.武器やタバコ>を投融資対象から除外すること)を実施している機関は極めて稀であり、また、CSR報告書等にSRI関連の情報を掲載することは皆無である。 尚、規模・国に関わらず金融機関の関心が環境分野に集中している現状では、TCSの活動・成果も同分野に偏る傾向が見られ、労働・人権といった社会的課題に携わるTCSには厳しい状況である。 研究成果ついては、2011年3月19-20日に開催予定だった日本NPO学会第13回年次大会において発表する予定であったが、東日本大震災の影響で大会が中止となったため、発表には至っていない。今後は、2012年3月開催予定の次回大会において発表する予定になっている。
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