本研究は、脅威認識を形成する要因を特定することを目的に掲げている。脅威認識に対する理解を深めることによって、国際関係の理解を促進すると同時に、国家間の安定に寄与する提言を行う学問的基礎をつくることを目指している。 本年度の研究では、脅威認識の形成要因をとくに日米両国の脅威認識を事例に調査・分析した。 具体的には、日米の対中国脅威認識について調査・研究を行い、米国において資料収集および聞き取り調査を実施するとともに、日本においても同様に資料収集ならびに聞き取り調査を実施した。その結果、下記の仮説が経験的データで支持された。 (1)相対的なパワーの増加によって脅威認識は形成される (2)米国は総合国力の増加に敏感で、日本は攻撃能力の増加に敏感である それ以外の以下の作業仮説については、(3)(4)(6)についてはある程度支持された。その他の仮説については、さらに検証の継続を要すると判断された。 (3)核心的な価値に損害を与える絶対的な攻撃能力の取得によって脅威認識は形成される (4)価値観の影響はパワーの増大が伴う場合に限って顕在化する (5)民主主義国家は非民主主義国家を脅威として認識する (6)国内組織は組織利益に合致する脅威を脅威として認識する (7)(その他の条件が等しいと仮定すると)競合的なナショナリズムが存在する国の能力・意図は、より強い脅威として認識される さらに、(1)(2)の仮説について、対中国脅威認識以外についても支持されるかどうかについて研究を推し進めた。とくに米国の1910年代以降の対日認識の変化を調査・分析した。その結果、(1)と(2)については、経験的データで一定の支持が得られたが、概して米国の対日認識は同時代の対独認識、あるいは1990年代の対中認識に比べて敏感さを欠いた。この点については、次年度以降の研究で明らかにしていく計画である。
|