本研究は、脅威認識を形成する要因を特定することを目的に掲げている。脅威認識に対する理解を深めることによって、国際関係の理解を促進すると同時に、国家間の安定に寄与する提言を行う学問的基礎をつくることを目指している。 本年度の研究は、昨年度の研究によって支持された仮説が他の事例でも当てはまるかどうかについての検討を行った。 具体的には、昨年度の研究で収集した資料の分析を行い、日米の対中国脅威認識について調査・研究を継続したことに加え、中国の対米、対日脅威認識の形成に日米の事例と同様のメカニズムが観察されるかどうかの調査を行った。即ち、日米の対中脅威認識の形成にとって、とくに重要だと認められた下記の仮説について中国においてもその脅威認識の形成に影響があったかどうかの検証を試みた。 (1)冷戦の終結とソ連の崩壊によって起こったパワーの分布の変化は安全保障上の依存関係を解消し、中国の対米、対日脅威認識に変化をもたらす 中国の脅威認識については、これまで研究が少ない。そのため、1980年代から1990年代の資料収集を行い、中国において聞き取り調査を実施した。 その結果、(1)については、冷戦終結とソ連の崩壊が大きな影響を与えたと示唆された。しかし、中国の場合は、ソ連の脅威の減少が1984年ごろから認識されており、それに伴って対米、対日認識に変化が生じたことが認められた。さらに、世界構造の変化だけでなく1989年6月の天安門事件の影響が対外脅威認識の形成に認められた。また、パワーの変化そのものよりも米国、日本の中国に対する行動、言説によって脅威を評価している傾向が認められた。 次年度の研究で、収集した資料等に基づいて、さらに、中国の脅威認識の形成過程についての検討を試みる計画である。また、中国、日本の事例の検討を踏まえて、米国の脅威認識についても精緻化を目指す。
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