本研究は、脅威認識を形成する要因を明らかにすることを目的に実施された。当該年度は、1980-90年代の米国の長期戦略策定に関わる脅威認識について資料の分析・聞き取り調査を実施したほか、1850年代の英国の対外認識、中でも対独認識について研究を実施した。また、日本の対中認識についても引き続き研究を実施した。 米国の脅威認識の形成においては、専門家の認識の形成には、価値観、イデオロギーの影響は強くは認められなかった。パワーの増大、パワーの分布の変化には非常に敏感に反応して脅威認識の形成への影響が認められた。その一方で、米国の安全保障専門家らが脅威への対処方法として提唱する安全保障政策や武器システムには不変の部分も観察される。つまり、脅威の対象が変わったにも関わらず、同じ武器の必要性を訴えているということである。これは、仮説(6)国内組織は組織利益に合致する脅威を脅威として認識することを示唆する。しかし、安全保障専門家が特定の組織に属していない例もあることから、これは既存の安全保障戦略が脅威認識を規定することがあることを示している。日本の対外認識は、総合的なパワーの増大については敏感な反応を見せず、局地的なパワーバランスに敏感である。 英国の事例は、1990年代の米国との比較事例として研究を実施したが、このケースにおいてもパワーの増大への反応が認められたものの、「文化」の違いに対する認識の影響も認められた。これはイデオロギーとは異なるものだが、価値観の相違の影響を示唆している。これは、米国の事例とは少し異なっている。
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