本研究は、3年間に亘る長期プロジェクトである。初年度にあたる平成20年度および平成21年度の2年間については、米国におけるウィルソン外交研究の動向を、より包括的に整理・再検証することが研究の最優先課題である。そのための基礎的研究作業として、本年度は当該テーマに関わる研究資料・一次史料の収集を行うとともに、以下の2点の成果を得た。 第1の成果は、「ウィルソン主義」とウィルソン外交の関係について、研究論文を発表したことである。拙論は、「ウィルソン主義」の実相を、民主化の推進、反帝国主義、民族自決主義、単独行動主義といった概念に焦点をあてつつ、歴史的実証分析により再検討を行ったものであり、「ウィルソン主義」を構成する個々の概念が必ずしもウィルソン外交の内実を正確に反映したものではないことを実証的に明らかにした。 第2の成果は、米国で学会報告を行い、日本外交史の視点を加味した日米外交史として、海外で研究成果を発表できたことである。2008年6月に米国・オハイオ州立大学にて開催された米国外交史学会(SHAFR)・2008年度年次大会において、ウィルソン研究の第一人者であるLloyd E. Ambrosius氏の司会により、「日米関係と米国のシベリア撤兵」というテーマで報告を行った。報告では、日米間の認識のずれや相互不信が惹起した問題点を指摘し、Mark Gilderhus、Noriko Kawamura両氏から有益なコメントをいただいた。その他、学会では、Ross Kennedy、John Cooper氏などウィルソン外交を専門とする研究者との交流が実現し、当該分野の最新の研究動向を知る上で大変貴重な機会となった。 来年度も、引き続き米国におけるウィルソン外交研究の動向を、包括的に整理・再検証するよう努め、3年目の研究テーマを視野に入れつつ、具体的な研究成果をまとめたいと考えている。
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