本研究は、3年間に亘る長期プロジェクトである。最終年度にあたる平成22年度は、平成20年度からの研究に引き続いて、米国におけるウィルソン外交研究の動向の整理・再検証を進めるとともに、具体的な研究成果をまとめることを最優先課題とした。そのための基礎的研究作業として、本年度も引き続き当該テーマに関わる研究資料・一次史料の収集を行い、以下の2点をはじめとする研究成果を得た。 第1の成果は、和田春樹他編『岩波講座・東アジア近現代通史4社会主義とナショナリズム1920年代』(岩波書店、2011年3月刊行)に、拙稿「ウィルソン主義とワシントン体制」を寄せたことである。ウィルソン政権の対日政策に関する実証的研究である拙著『ウィルソン外交と日本』(創文社、2006年)での成果を踏まえつつ、拙稿ではウィルソン政権以後の1920年代にまで研究分析の射程を広げた。1920年代の東アジア・太平洋における国際秩序の基盤となったワシントン体制をも視野に入れつつ、ウィルソン主義が世界大戦後の国際環境の中で具体的にどのように受容され、あるいは受容されなかったのかについて、米国、日本、中国、朝鮮の状況を相互比較しつつ検証した。 第2の成果は、2011年3月に米国ハワイ州ホノルルで開催されたアジア研究学会(Association of Asian Studies)年次大会において、「旧ドイツ領南洋諸島の委任統治問題をめぐる多国間交渉」と題する研究報告を行ったことである。報告では、当該問題に関する米国側政策決定者の諸認識を踏まえつつ、日本の政策決定者が英国、英自治領、および米国の交渉推移を慎重に見定めながら、権益の確保に余念がなかった点について一次史料を根拠に紹介した。
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