1. 理論研究:「水の安全保障」概念の利用について、先行研究と関連政策文書のサーベイを行った。「水の安全保障」概念は多くの場合、定義不十分なまま国家・国際レベルの安全を論じるにとどまり、「人間個人」レベルの安全を措定する場合も、先進国政府や企業の立場からみた安全を前提としている。いずれも当該地域に固有の環境や歴史・社会的文脈の中で、生活者の視点から「安全」やinsecurityの実態を理解し、問題状況を構成する主体間関係を理解するという視点を欠く。主体間やレベル間の諸関係が構築するガバナンス概念を分析枠組みとする必要がある。 2. 現地調査:(バングラデシュ南西部ガンジス川下流域):理論研究の結果を受け、9-10月にこれまでに訪問した2県以外の地域で予備調査を実施し直し、2-3月に、調査地をクルナ・ジェソール両県へと変更して本調査を実施した。その結果、同地域の住民は、インドによる上流での取水よりも、みしろ国内で先進国の援助を受け過去に実施された治水・開発事業を主因とする排水悪化(湛水問題)というinsecurityに直面していること、また排水改善には、地域住民の経験と発案に基づく「感潮河川管理(Tidal River Management: TRM)」が唯一持続可能な地域資源管理手法として効果をあげていることがわかった。 これらの結果は、理論研究で指摘した概念利用の問題点と、参加型現地調査の意義を実証するものとして重要である。 以上の成果は、経過報告として、国際会議"Bangladesh Water Security Workshop"(立命館サスティナビリティ学研究センター、立命館大学ほか主催、11月29・30日、於立命館大学)にて報告した(論題:"From Water Security to Water Governance: Conceptual Review in the Bangladeshi Context")。
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