平成20年度は、貨幣による補償が可能である場合について、非分割財の配分に関するメカニズム・デザインの研究を行った。 ホルムストロム(1979)は、一般的な経済環境で、戦略的操作不可能性と意思決定に関する効率性を満たすメカニズムの集合は、グローブズ・メカニズムの集合であることを証明した。さらに、大瀬戸(2000)は、個人の選好集合が有限である場合でさえ、グローブズ・メカニズムは予算均衡を満たさないことを証明した。すなわち、戦略的操作不可能性、意思決定に関する効率性、予算均衡の3つの公理を満たすメカニズムは一般に存在しないことが知られている。 宮川(2000)やスベンソン・ラーソン(2002)は、意思決定に関する効率性を要求せず、戦略的操作不可能性と予算均衡などの公理を満たすメカニズムの集合を特定した。それは、有名なトップ・トレイディング・サイクル・メカニズムを拡張したメカニズムである。しかしながら、彼らのメカニズムは、非羨望性などの公平性の条件を満たしていない。本年度の研究では、戦略的操作不可能性と予算均衡を満たすメカニズムが公平性の最小限の要求である対称性(2人の個人が同じ選好をもつとき、2人は同じ効用水準の配分を受け取るという性質)を満たすか否かを検討した。主要な結論として、戦略的操作不可能性、対称性、予算均衡の3つの公理を満たすメカニズムは一般に存在しないことを証明した。これは、安藤・加藤・大瀬戸(2008)の数値計算による結果を拡張したものとなっている。
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