本研究では、経済環境におけるメカニズム・デザインについて、最近の研究動向を踏まえた新たな取組みを行い、メカニズム・デザインの可能性と限界を明らかにすることを目的としている。平成21年度は、排除可能な公共財の供給と費用配分に関するメカニズム・デザインの分析に取り組み、以下の成果を得た。 ムーラン(1994)は、一般的な環境で、排除可能な公共財の供給と費用配分に関する逐次的メカニズムを提唱した。逐次的メカニズムは、戦略的操作不可能性(真の選好情報を伝達することが支配戦略であること)、強い個人合理性(すべての個人にとって、すべての費用を負担して公共財を供給するよりも望ましい結果が得られること)、対称性(2人の個人が同じ選好を持つならば、2人は同じ効用水準の財を受け取ること)の3つの公理を満たすことが知られている。本研究では、公共財の供給水準が2つの場合に、逐次的メカニズムが戦略的操作不可能性、強い個人合理性、対称性の3つの公理を満たすほぼ唯一のメカニズムであることを証明した。この結果は、デブ・ラゾリーニ(1999)の逐次的メカニスムの特定化に比べ、いくつかの仮定や公理を排除して証明しているという点で優れている。また、関連する多くの研究において用いられている非干渉性(自分の受け取る財を変更することなく、他人の受け取る財を変更するように選好の操作はできないこと)の公理を要求していない点も重要である。この結論より、排除可能な公共財のと費用配分の問題における逐次的メカニズムの重要性が、一層明らかになったと言える。
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