平成22年度は、貨幣による補償が可能である場合について、1単位の非分割財の配分問題に対するメカニズム・デザインの研究を行った。 ホルムストロム(1979)は、一般的な経済環境で、戦略的操作不可能性と意思決定に関する効率性を満たすメカニズムの集合は、グローブズ・メカニズムの集合であることを証明した。さらに、大瀬戸(2000)は、個人の選好集合が有限である場合でさえ、グローブズ・メカニズムは予算均衡を満たさないことを証明した。すなわち、戦略的操作不可能性、意思決定に関する効率性、予算均衡の3つの公理を満たすメカニズムは一般に存在しないことが知られている。 そこで、意思決定に関する効率性を要求せず、公平性の最小限の要求である対称性(2人の個人が同じ選好をもつとき、2人は同じ効用水準の配分を受け取るという性質)を要求して、望ましいメカニズムの設計可能性について議論した。主要な結論として、個人の選好集合が有限である場合でさえ、戦略的操作不可能性、対称性、予算均衡の3つの公理を満たすメカニズムは一般に存在しないことを証明した。 この結論から、複数の非同質的な非分割財の配分問題においても、ある弱い追加条件が満たされれば、戦略的操作不可能性、対称性、予算均衡の3つの公理を満たすメカニズムは一般に存在しないことが示される。これは、宮川(2000)やスベンソン・ラーソン(2002)のメカニズムが対称性を満たさないことを意味している。
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