研究概要 |
自由時間へのアクセスに関する機会の不平等指標として、労働搾取概念を定義し、その適切な定式に関する公理的分析の研究を進行させた。具体的には、平成21年度に完成させたディスカッション・ペーパー『Exploitation as the Unequal Exchange of Labour:An Axiomatic Approach』の延長上で、公理体系をより説得的にするべく改善の作業を行った。特に、マルクス的経済理論体系を共有しない人たちにとって必ずしも説得的とは言えないかもしれない「搾取のない効率的配分に関する分権的遂行可能性」公理を、極めて自然かつ一般的な要請である「連続性」公理に置き換えただけの新たな公理体系の下であっても、依然としてそれら4つを全て満たす搾取の定式は唯一、Dunkan Foley(1982)の提唱したそれのみである事を示した。この結果、提示する公理体系はより説得的で論争喚起性の余地の少ないものとなった。同時に、公理的特徴づけの為の数学的分析はより高度なテクニックを要するものとなり、純粋な数理経済学の論文としても十分に読み応えのあるものに仕上がる展望が立った。また、人々の消費財及び労働供給に関する選好や物的資本財及び人的資本の初期賦存も個々人で異なり得るという、標準的な一般均衡理論での想定並みかそれ以上に一般的な経済環境を想定した下での、利潤と搾取関係の対応性の観点からの、搾取の定式の公理的特徴づけの論文をほぼ完成させた。その他、労働搾取理論に関連する諸論文を派生的に書き、それらの成果の一部がJournal of Economic Behavior and Organization, Bulletin of Political Economy,Metroeconomica等の査読つき国際誌で公刊された。新たにAdvances in Mathematical Economics誌に投稿した論文も、マイナーな改訂の上での再投稿を求められ、近い将来に受理される高い見込みが立っている。
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