研究概要 |
本研究は,学校・教師の最適化行動を組み込んだ二部門世代重複モデルで,教育セクターの経済成長に果たす役割を明らかにする。特に,資源配分における教育供給と財供給間の,すなわち将来世代と現在世代と間の経済厚生上のトレードオフを扱い,社会学で指摘されている教育の「社会化」をモデルに組み込むことである。そこで本年度は生徒が社会化,つまり社会的適応能力を高めるという教育と,いわゆる知識・能力を高める教育の2種類がなされるという想定のもと,教師がいかなる時間の配分で生徒を教育すべきか,について理論モデルを構築し,また今後本モデルを動学体系のモデルへと発展させる際に必要となる,二部門世代重複モデルに公共財供給を組み込んだモデルを構築した。 前者の主な貢献は以下の2つである。1つめは,教師の行動をより現実に即したかたちで定式化したことである。これまでの経済学での理論的分析とは異なり,生徒の教育時間決定に依存するかたちで教師の教育時間を決定するという行動を定式化した。2つめは,Lazear (2001)における指摘とは異なり,教師が生徒を,あるいはある世代が次の世代を教育し,世代が下がるとともに蓄えられる人的資本水準が高くなればなるほど,最適なクラスサイズが小さくなることを明らかにしたことである。後者における主たる貢献は以下の2つである。1つめは,これまでは1部門世代重複モデルに公共財が導入されたモデルしかなかったが,2部門世代重複モデルに教育のような公共財的性格を帯びたものを組み込んだことである。そして2つめは,2地域を取り扱えるように,2地域間で財の移動のある枠組みを提示していることである。これらの特徴から,公共財的なもの,あるいは教育供給が高いところが必ずしも生産水準が高くなるとは限らないという示唆を示すことができた。
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