フォーク定理の前提条件を満たさない繰り返しチーム生産モデルにおける、利得和最大均衡の導出に関する研究を完成させた。昨年度までの研究で、毎期1名だけが怠けてよいこととし、誰が怠けてよいかは過去の結果に応じて決めるというタイプの均衡(ターンオーバー均衡)が、利得和を最大化する均衡となる条件は明らかにしていた。今年度は研究を更に進め、その条件が満たされずターンオーバー戦略が均衡にならないケースにおいて、ターンオーバー戦略の利得が均衡として近似的に達成できる条件を明らかにした。この結果は、全員努力する場面が一切ない行動パターンが利得和最大均衡に対応することを意味しており、行動面での含意が興味深い。昨年度までの研究結果と合わせて、フォーク定理の前提を満たさない不完全観測の繰り返しゲームに関する理解を深めることができた。 また、観測がプレーヤーの意思決定の一部となる繰り返しゲームモデルの分析の一環として、プレーヤーが各期末に他のプレーヤーの行動を観測するかどうかを決めるモデルを考察した。通常のモデルは、相手の行動を自動的に観測するモデルと解釈できる。観測は無費用のオプションなので、通常のモデルで均衡として実現できる利得は、このモデルでも均衡利得になる。よって問題は、観測しないという選択肢の存在が、均衡利得集合を広げるかどうかである。ステージゲームのナッシュ均衡が一意な有限回繰り返しゲームのクラスで、観測オプションのあるモデルで協調が可能になる条件を導出した。この結果は、有限回繰り返しゲームにおいてよく知られた協調不可能命題が観測オプションのあるモデルに拡張しないことを示しており、フォーク定理の成否の線引きに新たな視点を提供するものである。
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