昨年に引き続いて,動学的公共財供給ゲームの均衡の特徴付けの証明を完成させる作業を行ったが,均衡を完全に特徴付けることには至らなかった。公共財の完成に必要な貢献量の総量が各貢献者の公共財に対する価値額より小さい場合には,均衡は実質的に一意で,それを完全に記述することには成功したのだが,必要な貢献量の総量が貢献者の公共財に対する価値額の最小値を超えている場合には,均衡が複数存在し,しかもそれが無数にあることが判明した。ゲームがある程度進行していき,必要な貢献量の残額が少なくなった時点からの均衡は一意に定まることが分かっているのだが,そこに至るまでの均衡の動きを完全に記述することはできなかった。その1つの原因としては,必要な貢献量が少ない場合の均衡の記述と均衡の一意性の証明が複雑になりすぎてしまったことがある。 しかし,裏を返せば今回のゲームでは均衡が多数存在することが判明したわけで,そのメカニズムを明らかにできたことは今後のこの種のゲームの分析に役立つと考えられる。公共財に対する価値額が貢献者同士で分かっている完備情報のケースでは均衡はシンプルで一意であることが分かっている。そのゲームに他者の選好の不確実性を導入することによって,均衡が多数出てくるというのは示唆に富む結果であり,当初は予想していなかった。しかも選好に不確実性があるゲームに特有の信念の複数性・不決定性が理由ではないのである。
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