研究概要 |
本研究計画は,理論派と歴史派との間に起こったイギリス19世紀末の経済学方法論争について,その経済学史上の意義を明らかにしようとするものである。平成21年度は,とくに経済学における説明という論点について研究した。この論点は,従来の研究ではあまり注目されなかったものであるが,非常に興味深い問題を提起している。説明(explanation)が科学の課題の1つであるということは,広く認められている。しかし,歴史的・事実的研究の場面と理論的研究の場面とでは,説明の意味が若干異なっている。J.S.ミルによれば,事実の説明とは,その原因を指摘すること,すなわち,その事実の起こることがその一事例であるような,因果法則を指摘することであり,法則の説明とは,他の法則からその法則を演繹することである。歴史学派が主として関心をもったのは,いうまでもなく個別的な事実の説明のほうであった。このような個別的事実の説明を重視する姿勢は,すでにジョーンズにおいて明らかであり,やがてトインビーがすぐれた実例を示すこととなった。平成21年度の研究のなかで明らかになったのは,ロジャーズにおける歴史的説明の重要性である。ロジャーズはマンチェスター派の影響を強く受けた自由貿易論者であり,歴史学派の一員とされるけれども,どのような意味で歴史学派といえるのかという点が,必ずしもはっきりしなかった。この点をかなり明確にできたことが,平成21年度の研究成果である。すなわち,歴史的出来事の原因を探究するという意味で,ロジャーズもまた歴史的説明を試みていた。その原因についての理解は,他の多くの歴史学派と異なっていたが,「探究の仕方」という点では共通性があったのである。この成果は,いまだ発表には至らず,論文のかたちにするのは平成22年度を待たなければならない。
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