研究概要 |
本研究は、成立期経済学と共和主義思想の関係をより明確にする長期的課題を念頭に、十七世紀から十八世紀後半にかけての共和主義思想自体の動態変化の把握の基礎として、研究史上ほとんど手付かずのテーマである、十七世紀共和主義思想が持つ宗教性の解明を、ジェームス・ハリントンの複数の著作を中心におこなった。つまり、十七世紀共和主義思想が有した宗教性(特定の教義ではなく、社会や人間に関する宗教的価値規範)が、いかにしてアダム・スミスたちの十人世紀的道徳哲学に変貌していったのかを展望する起点として、ハリントンの宗教性を分析することを、研究上の目的とした。 研究の第三年度であり、最終年度でもある平成二十二年度は、次の五つを課題とした。第一に、前年度に日本イギリス哲学会関西部会(2009年12月)で口頭発表したThe Prerogative of Popular Government, book IIの分析の一部を元に、2010年5月の政治思想史学会でのシンポジウムで発表をおこなった。この作業によって、共和主義思想史における宗教性の議論の役割について、さらに検討する論点を明確化した。第二に、前記の二つの口頭発表とそこでの質疑応答を踏まえて、その内容の一部を論文化して発表した(項目11に記載の論文)。第三に、ハリントンの宗教思想を経済思想と関連付けて議論をおこない、関連学会において口頭発表をおこなうという課題については、十分な時間を割くことができなかったので、今後の課題となった。第四に、ハリントンが思想を形成する際に影響を及ぼした初期ステュアート朝期の宗教思想と論点を踏まえて、彼自身の家族史的背景が宗教思想に与えた影響について考察を加えた。第五に、英国やオランダでの資料収集と、欧州の関連研究者との意見交換を進めつつ、研究の総括をおこなった。
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