20年度は、ボワギルベールの自由主義経済学の思想的源泉を解明するために、彼に影響を与えたピエール・べールなどのりベルタン、ラ・ロシュフコーなどのモラリスト、さらにピエール・ニコルなどのジャンセニスト関連の図書を収集し、とくにボワギルベールとの関係で最も重要であるニコルの著書を読み込んだ。わが国ではほとんど知られていないが、ボワギルベールの思想的源泉の一つは、ジャンセニスト、とりわけニコルやジャン・ドマにある。両者の関係の解明は、ヨーロッパ近代のどのような事情が経済学という新興学問を生みだしたのか、という経済学の生成問題を究明する上できわめて大きな重要性を持っている。 ニコルはアウグスティヌス主義の原罪の思想に基づいて、徹底的に堕落した人間が、ではどのようにして社会の秩序を維持しうるかを問うて、功利的人間が織りなす欲求の社会における「利益による秩序」の可能性を見いだした。しかしそこでは、便宜を求めてやまない人間の功利的行動は宗教・政治の規範にしっかりと繋ぎとめられていた。ボワギルベールは、そのようなニコルの「情念と秩序の哲学」の延長上で自由主義の経済学を打ち立てたのであるから、彼が成し遂げた飛躍がいかに大きなものであり、自由主義の、あるいは功利主義の経済学の形成の上で、彼の歴史的貢献がどれほど大きかったか、鮮明に明らかとなった。 これについて、きたる経済学史学会全国大会(5月)で、「ボワギルベールの自由主義経済学とその思想的源泉-ジャンセニスムとの関連をめぐって-」と題して報告し、さらに論文としてまとめる予定である。
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