17世紀後半の多様なフランス思想の展開とアウグスティヌス主義との関連に注目し、ここに経済学の起源を求める視点から、フランス経済学の生成と展開の歴史的意義を解明することを目指して、まず経済学の起源とアウグスティヌス主義やエピクロス主義との関連に触れた最近の研究動向をまとめ、学会誌(『経済学史研究』)に発表した。原罪説に依って立つアウグスティヌス主義のペシミスティックな人間理解が功利主義の人間観や社会観の源流となり、経済学の有力な源泉の一つとなっていくというのは、日本の学会ではこれまでまったく注目されることがなかった論点である。 この新たな視点に立つとき、フランス経済学の出発点を画するボワギルベールの歴史的意義はいっそう大きくなる。彼の思想的源泉の探求の一環として、ジャンセニストのピエール・ニコル(とジャン・ドマ)の文献を読み込み、「経済学の起源とアウグスティヌス主義-ニコルからボワギルベールへ」という論題で論文を執筆した(大学の紀要に掲載予定)。さらにボワギルベールと思想的源泉を同じくするマンデヴィルの位置づけが重要であるとの認識から、「マンデヴィルとフランス思想」というテーマで研究を進めた。 一方、彼らの思想的源泉それ自体の探求のため、人間を、本来的に快楽を求める欲求の主体とみなす、いわば世俗化の論理に影響を与えた17世紀のエピクロス主義に着目して、研究書などを読んだ。この点は、ニコルやドマ以外の重要な論者、すなわちモラリストやピエール・べールなどとの関連の解明と併せて次年度の課題である。
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