平成21年度は、研究プロジェクトの二年目にあたり、漸く、ネヴィル・ケインズのマイクロフィルムのトランスクリプションが本格的に開始された。現段階で、すべてのトランスクリプションが完了していないものの、これまでに、ネヴィル・ケインズがケンブリッジ大学のベンブルックカレッジに所属した経緯、同郷(ソールズベリ)であったフォーセット(Henry Fawcett)との関係、数理トライポスではなく、モラル・サイエンス・トライポスを目指すことになった経緯、ベン(John Venn)を指導者と仰いだものの、その後彼から離れていった経緯、最優秀で合格しペンブルック・コレッジのフェローとなった経緯、さらにその制度改革に携わったこと、父親の死、母親をなぐさめるためにイギリス湖水地方を旅した経緯、奥さんとの出会、教員のモラル・サイエンス・クラブの設立経緯、シジウィック(Henry Sidgwick)との関係、息子のメイナードが誕生したときの経緯、その後の成長過程などなどが明らかとなった。これらのトランスクライブされた内容が順次データベース化されはじめた。その一方で、ネヴィル・ケインズの専門となる『形式論理学』との関連で、19世紀中庸のイギリスにおける論理学の状況といったコンテクストの研究は、現段階では、文献の収集にとどまっている。平成22年度は、ネヴィルの同著の形成過程をこの日記に基づいて明らかにすることが研究課題として加わった。
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