研究概要 |
本研究では,空間的の属性を伴うパネルデータを適切に分析するための頑健な枠組みを構築することを目的に,観測対象が(時間横断面的な)空間的な相関,特に空間的自己相関,をもつパネルデータのための一般化モーメント法推定量の開発を行ってきた.前年度までに,(1)空間的自己相関をもつパネルデータによる複数の同時方程式について,これらの撹乱項に相関がある場合の線形回帰モデル(SURモデル)の一般化モーメント法推定量,および(2)撹乱項が空間的自己相関をもち,さらに時系列でも前期の撹乱項と自己相関する場合の単一方程式の線形回帰モデルの一般化モーメント推定量について,その構成方法を明らかにし,有限標本下での振る舞いについて検討を加えてきた.さらに,家庭系廃棄物排出および大気中への自動車排気ガスの排出に関する分析に応用するための準備を進め,一部予備的な結果を得るに至った. 本年度は,前年度までに取り上げた2つのモデルの一般化モーメント法推定量の大標本下での振る舞いについて検討を加えた.一つには,定常性が得られる空間的自己相関係数の係数の範囲について,Kelejian and Pruchaらの一般化モーメント法推定量では,従来の取り扱いよりも大きな下限にもとづいて議論をしており,定常性の十分条件のみが取り上げられているように見えるが,これを空間重み付け行列の固有値に関する考察から再考察した.また一つには,時系列方向の自己相関を空間的自己相関とともに取り込んだ場合の定常性について検討を加えた.時間断面方向の空間的自己相関家庭についての定常性だけでなく,時系列方向についても定常性を求める場合には,これらのパラメータの絶対値の和について必要な条件が求められる.しかしながら,標準的なパネルデータでは時系列方向のサンプルの増大は考慮せず時点数は固定とすることから,このような条件が応用研究を進める上で求められる状況についてさらに検討を行う必要がある.
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