平成20年度の研究においては、我々の提案した検定統計量は、(1)検定のサイズに歪みがあり、また(2)検出力が弱い、ということが分かった。そこで平成21年度の研究では、それらの弱点を克服すべく、検定統計量の小標本特性の改善(検定のサイズの歪みの是正と検出力の向上)を目指して、いくつかの方法を試み、一定の効果を確認した。具体的には、以下の3つのアプローチとその発展型を試みた。 (1)動学的パネルモデルは時系列モデルの拡張版と考えることができるので、典型的な時系列モデルであるVAR(vector autoregressive)モデルについて提案されている方法の適用を試みた。すなわち、Kurozumi=Yamamoto(2000)で提案されている推定量のジャック・ナイフ型のバイアス修正の方法を適用した。 (2)同様に時系列モデルにおける検定統計量のゆがみを調整するために提案された、推定量の分散を適度に拡大させる、Chigira=Yamamoto(2007)の方法を適用した。 (3)検出力の向上のためには、モデルの表現の定数項の扱いを変更する方法、ならびに意図的に高次の項を加える方法を試みた。 様々なモンテ・カルロ実験により、これらの方法は、検定統計量の小標本特性の向上に一定の効果があることを確認した。検定のサイズの歪みの改善には顕著な効果が認められたが、検出力向上については、既存の研究と比較して、さらなる改善が必要と思われる。
|