研究概要 |
平成20年度ならびに21年度の研究において、我々が当初提案し検討を重ねてきたラグ変数を追加する検定方法は、検出力が低くその改善は困難であった。具体的には、これまでの標準と考えられているIm,Pesaran and Shin (Journal of Econometrics、2003。以下、IPS)と比較して検定の検出力が明白に劣っていた。そこで22年度は、別のアプローチを探った。 すなわち本年度は、IPS法に対する2つの変更を提案・検討した。 (1)まず意図的にモデルにおける定数項を除いて検定統計量を構築する方法を考える。これは、推定するパラメーター数を減らすことで、推定の効率性を上げて、検出力を上げようする試みである。この方法は帰無仮説の下では問題がないが、対立仮説の下では定式化の誤りを含むモデルとなる。しかしながら、この状況下でも検定の一致性を持つことを示すことができる。 (2)既存の方法では、検定のために独自の臨界値の数表が必要となるが、Abadir(Econometric Theory,1995)に従いIPSタイプの検定統計量についての近似的分布を考え、正規分布に基づいて検定することを考える。小標本実験により、正規近似は十分に正当化されることが明らかになった。 結論として、上記の改善は効果があることが小標本実験により示された。すなわち、真の根が単位根の近傍にある時に、この方法はIPSより高い検出力を持つことが示された。したがって実用性は高いと思われる。同研究結果は、ISI 2011(Dublin)大会において報告の予定である。ただし、この方法はN(クロスセクションの次元)が大きいときに検定のサイズが下方にバイアスを持つので、この点については今後にさらなる改善の余地が残されている。
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