前年度までの準備・助走に基づき、「法人企業統計季報」の個表を活用して検討課題の詳細な分析を行った。成果は、6本のdiscussion papers(うち1本は英文)にとりまとめた。この成果に基づく報告を東京大学、大阪大学、財務省、日本銀行などで行いつつ、いくつかの論文に仕上げる過程に入っている。現時点までに公表場所とその号数まで決定している論文は1本であるが、近日中にさらに2本が完成・公表の予定である。 検討課題が多岐にわたることを反映して新たな発見も多い。たとえば、「『銀行ばなれ』と『金融危機』(騒動)の実相」と題する5月公表の論文では、日本の金融資本市場における銀行を中心とする金融機関の地位と役割の決定的重要性が日本の研究・政策論議の大前提であったことを指摘した上で、次の2点でこの大前提が誤解に基づく誤りである点を指摘した。(1)企業の金融機関借入依存度は「通念」が想定する水準を大きく下回っており、近年の金融超緩和政策下で「銀行ばなれ」がさらに進行した。この傾向は規模の小さな企業でより著しい。(2)研究・政策論議の大前提の妥当性に疑問を提示する(1)の結論は、「金融機関の危機」と「金融危機」とは異なるのではないかとの疑問につながる。1997年末~1999年初頭の「金融危機」下の企業の資金調達行動に関する検討は、「金融危機」が「金融機関の危機」との混同による騒動であったことを示唆する。 このような市場における銀行の地位と役割に関する「通念」の批判的検討のうえに、従来、あまり研究者の関心を呼んでこなかった企業間信用の実体とたとえば、それと銀行借入などとの関係について検討し、新たな問題提起をした。これが、今後の研究計画もつながり、同時に、多くの研究者の関心を呼ぶはずである。
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