本研究では、経済危機前後のインドネシアを対象として地域間経済格差の変化を概観すると同時に、地域格差の拡大・縮小の変動要因を生産要素の賦存量や産業・地域構造要因から検証することを目的とする。第2年目となる平成21年度では、前年度に整備したインドネシアの地域データ(人口・生産額・労働人口)を用いて、シフトシェア分析により、労働者あたりGDPに基づく労働生産性の地域間格差の要因を分析した。分析の結果、インドネシアでは、各産業の労働生産性の地域間格差が各産業の就業人口構成比の地域間格差よりも労働生産性全体の地域間格差の形成に大きく寄与していることが明らかとなった。各産業の労働生産性の地域間格差は、産業インフラや人的資本の地域的な偏在より発生していることから、こうした状況の是正には、都市と地方との地域間相互依存関係の強化や都市部に偏重した従来型の地域開発政策を改めることが重要であると提言した。 加えて、データの整備では、Perpetual Inventory Methodと、Ezaki & Sun (1999)が開発した限界資本係数に基づく手法の2通りの推計手法を用いて、インドネシアの地域別の資本ストックを推定した。さらに前年度に整備した生産額と労働人口のデータを用いて、成長会計分析による全要素生産性(TFP)の推計も行った。これらのデータを用いて、供給面から地域間経済格差への寄与を検証したところ、資本の賦存量の地域間格差が一人あたりGDPに基づく地域間経済格差全体に最も大きく寄与していることが明らかになった。 インドネシアでは、資本ストックのデータが公表されておらず、加えて、生産要素の地域ごとの賦存量に言及した研究もこれまで行われていないため、本研究はインドネシアにおける重要な政策課題の一つである地域間所得格差を供給面から分析することで研究の独自性を確保している。
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