本研究では、後発医薬品の需要と供給に関する実証研究を行う。後発医薬品は、新薬の特許失効後に参入する医薬品で、新薬と同等の薬効であるが低価格なため、世界的な医療費削減の流れを受けその利用促進が世界各国で注目を集めている。一方で、後発品の使用増は新薬開発の誘因を低下させるため、どのような要因が後発品の選択に影響するか(需要サイド)、また、後発品企業の参入及び価格競争がどのように起るか(供給サイド)の理解は重要である。 本年度は、第一に、先発品と後発品がどのような要因から選択されるのか、平成15年-平成17年の健保レセプトデータを用い分析を行った。1998年以降に後発品が参入した40品目を取り上げ、医療機関の属性(病床区分、医薬分業の有無、診療科など)、患者の属性(年齢、性別、保険種別)、医薬品の属性(薬価差、薬価差益差、急性疾患・慢性疾患の別など)、状態依存性、が選択に及ぼす影響を分析した。分析結果から、先発品と後発品間の患者の自己負担額よりも、薬価差益の相違が選択に影響することが示された。興味深いことに、これらの結果は院内処方のクリニックのみに観察された。また、先発品と後発品の選択には強い状態依存性が存在すること、医師によって後発品の嗜好に大きな偏りがあることなどが分かった。 第二に、薬局における後発品調剤の促進に向けて、2008年4月に新たなインセンティブが導入されたが、この施策が調剤薬局における後発品調剤率にどのような影響を及ぼしたか、aggregateなデータを用いて分析を行った。後発品調剤率が30%のハードルを越えるか否かで調剤報酬が異なる、というインセンティブにより、ハードルの前後では調剤率が変化したものの、ハードルを大きく上回る薬局では調剤率に大きな変化が見られなかった。後発品調剤率を更に引き上げるためには、インセンティブ体系に工夫が必要であることが示唆された。
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