研究概要 |
2010年度には,研究計画調書で述べた研究課題(a)に対応する研究成果を得られた.そのモデルでは以下の仮定をおく.電力スポット取引市場では,同質的なn社の発電企業が電力を供給している.そして,各発電企業は将来の自社の利益の確率分布のα-quantileを目的関数として,市場へ提示する供給関数(戦略)を決定する.このモデルにおいて,各発電企業の限界費用関数を1次関数とする場合には,ナッシュ均衡が唯一つ存在することを示した.さらに,そのナッシュ均衡を具体的に求めることもできたことにより,ナッシュ均衡におけるスポット価格式を得ることもできた.一方,各発電企業の限界費用関数を指数関数とする場合には,ナッシュ均衡が存在するための必要十分条件を得た,そして,その条件のもとでナッシュ均衡を具体的に求められたことから,ナッシュ均衡におけるスポット価格式も得られた.学問的かつ実務的観点から,これらの拡張の成果は重要である.この拡張により,市場参加者の数と市場支配力の関係を明確化できた.加えて,市場支配力とスポット価格変動に生ずるスパイクとの関係を議論するための基礎形成が一歩前進した.2009年までには,複占市場(n=2)およびある条件下の3社寡占市場においてナッシュ均衡を求めていた.しかし,PJM, Nordpool,APXなどの現実の市場のより詳細な分析には,より一般的な寡占市場を表現するモデルが必要とされる.また,このモデルでは,将来の電力需要量を表す確率分布族を一つには仮定してない,そのため,複数の確率分布族に対して,このモデルの結果は成立する.したがって,データ分析においても需要量の変動を表すために複数の確率過程を用いることも可能である.この意味で本モデルは頑健である.本年度はこの拡張をさらに進めていく予定である.また,これまでの本研究の成果に基づいて,港湾間競争の分析も行った.
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