研究概要 |
2011年度には,研究計画調書で述べた研究課題(a)に対応する研究成果を得られた.2010年度までには需要関数が非弾力的な場合に限定したモデルについて,ナッシュ均衡およびナッシュ均衡における価格式を導出した.2011年度には,これを次に述べる需要関数が弾力的なモデルへ拡張した.傾きが負の1次関数を需要曲線として用いる.ただし,需要量の不確実変動を表現するためその切片に確率変数を用いる.この場合に,1次関数を限界費用関数とする同質的な発電企業n社による寡占状態の電力取引市場モデルにおいてナッシュ均衡およびその均衡におけるスポット価格式を導出した.したがって,2010年度までの結果の一部を包含する研究成果を得られた.この拡張により余剰および厚生損失に関する分析が進んだ. さらに,本研究のモデルを既存モデル(Cournot Model, Bertrand Model, Supply Function Approach)と比較することが容易になった.すなわち,電力取引市場の制度設計とその周辺に関する経済政策的議論において,本研究のモデルがより強力な道具となり得ると考えられる.なお,需要関数が非弾力的な場合に限定すれば,本研究モデルにおいてmark upを決める2つのパラメータ「企業数」と「リスクに対する態度(将来利益の分布において企業が注目しているquantile)」をデータから算出する方法も考案した.これにより,「取引量と価格にという2種類のデータのみから,ある取引市場において行使されているmarket powerの程度を計測する一方法」が得られたことになる.一方,既存のmarket power計測方法においては,市場全体の供給関数の推定を要する等のデータ収集コストが大きい.したがって,本研究が提案する方法はこの点でも意義は大きい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題申請当初の計画と比較すれば,現時点でその進捗が遅れていることを否定できない.しかしその一方,当初計画では予想できていなかった重要な成果(例えば,2011年度の研究成果,Shipping Freight Rateの評価への応用等)へと結びついている.したがって,当初計画とは異なる方向ではあるものの,その進展は小さくないと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
2012年度には,ここまでの研究成果を基にデータを分析し,その結果も含めて論文とし,学術雑誌へ投稿することを最優先事項としている.そのため,研究内容それ自身の新たなるかつ重要な進展について期待を持つことは難しい.しかしながら,研究集会等様々な機会を利用し研究報告を行うことで,他の研究者の方々から有益なコメントを得られることが予想される.それらを活用し,これまでの研究成果を基礎とする電力デリバティブの価格評価モデルに関する研究を推進する予定である.
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