本研究では、沖縄電力を除く垂直統合型の電力会社の電源構成・送電設備・発電の限界費用・電力需要などに関するデータをもとに、地域間連系線によって相互に接続されている送電ネットワークにおける卸電力市場の分析を行った。具体的には、小売市場における需要家との契約を所与とし、送電ネットワークにおける9社間の卸電力取引を分析した。その際、各社のメリット・オーダーと電力需要をもとに、卸電力市場における電力の限界費用曲線をそれぞれ想定した。これらのデータは、電力中央研究所の卸電力取引の実験における想定から得た。分析では、従来市場支配力の研究において取り上げられてきたクールノー・モデルに加えて、新たに非競争均衡(non-competitive equilibrium)モデルを適用し、卸電力市場において売手だけでなく、買手にも支配力が存在する場合を取り扱った。これらのモデルによって電力取引を分析し、送電ネットワークのもとで各社の有する市場支配力が経済効率に及ぼす影響を分析した。 分析の結果、多くの発電設備を有する電力会社だけでなく小規模の電力会社にも、均衡価格や取引量に影響を及ぼすことによって超過利潤を獲得する可能性が明らかになった。これらの小規模な企業は、従来の分析では完全競争市場と同様の行動をとる点が前提とされてきたが、本研究では双方寡占のモデルを適用することによって、送電ネットワークに接続されている小規模な企業の有する市場支配力が無視できない水準にある点を明らかにした。特に、過去の研究において市場支配力の分析にしばしば用いられてきたクールノー・モデルでは、小規模な企業の有する支配力を無視することによって、経済効率の評価にバイアスが生じる点が明らかになった。
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